🎐潯珩亂筆 061 - ✨ ワイングラスは小道具ではない

その日、私は一本の良いワインを持って友人の家を訪れた。  高価な名酒ではない。  ただ、私が心から好きなワインだった。  時間の中で、ゆっくり発酵してきたその忍耐が好きだった。

友人はとても親切で、  ワインを開け、棚からグラスを取り出した。  軽くて、薄いプラスチックカップ。指紋や水滴が残っているものだった。

私は何も言わなかった。  ただ、その瞬間、心の中で小さく「あ」と思った。 なぜ「細かすぎるこだわり」が必要なのか、  理解できない人も多い。  それは過剰な演出でも、  息苦しいサービスでもない。  ただ、その物事が丁寧に扱われる価値があるかどうか、という話だ。

良いワイングラスは、  誇示するためのものではない。  発酵という時間の苦労にふさわしい存在であるためにある。

私たちは、  ただワインを飲んでいるわけではない。  指が触れるガラスの感触、  ワインの温度、  グラスが触れ合う澄んだ音、  注ぐときの流れのリズム、  グラスに包まれた鼻が感じる幾重にも開いていく香り。

それは、  すべての感覚が一斉に集まる一瞬の饗宴への招待だ。

ワイングラスが運ぶのは、  ワインだけではない。  その瞬間に注ぎ込まれた感情——  喜び、祝福、感謝、共にいること。

けれど私たちは、  細部の中で、  それらをよく見失ってしまう。

ワインを祝福することを忘れ、  そして忘れてしまう——  なぜこの瞬間に、  水ではなく、ワインを選んだのかを。



—— 潯珩亂筆 | XC Scribbles · 陸拾壹 LXI 🍷

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