🎐潯珩亂筆 060 - ✨ 旅が好きだと思っていた

友人に、ニュージーランドに行かない?と聞かれた。  一瞬、言葉に詰まり、  自分が思っていたほど胸が高鳴っていないことに気づいた。

もちろん、景色は今も美しい。

初めてNZを訪れたときのことを覚えている。  クイーンズタウンに降り立った瞬間、  まるで一枚の絵の中に住み始めたようだった。

ミルフォード・サウンドまでの道のり。  何時間も続く静けさの中で、  山道を進みながら春、夏、秋、冬が向かってきた。  山の雪線と、  麓の緑が一緒になって、  視界いっぱいに広がった。

今思い出しても、  思わず息を止めてしまうほど、美しい。

でも、少しずつ分かってきた。  私が忘れられなかったのは、  景色そのものではなかった。  あのときの「状態」だった。

そこはとても静かだった。  人も少なく、騒音もなく、  傷つけられた痕跡もなかった。  私は何も考えず、ただそこに溶け込んでいた。  天と人が一つになるような感覚。

絵を「見に来た人」ではなく、  絵の中にいる一人の人物。  世界は私の向こう側にはなく、  私の内側にあった。

旅が好きだと思っていたけれど、  本当に好きだったのは、  完全に手放し、完全に溶け込む、その感覚。

飛行機、ホテル、予定、チェックイン。  それらは休暇の手順であって、  私が求めていた本質ではなかった。

だって、  私が静かになることを選べば、  どこにいても、  山でも、海でも、街角でも、  窓の外の一本の木でも、  私はその絵の中に入れる。

その瞬間、  私は景色を見ているのではない。  私自身が、景色になる。



—— 潯珩亂筆 | XC Scribbles · 陸拾 LX 🌿

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