🎐 潯珩亂筆 019 - ✨音楽が教えてくれた「正直さ」

手風琴を始めた頃、  私は少しだけピアノ出身者のプライドを持っていた。

音楽はわかっている。  だから、きっと早く、楽にできるはず。  スペイン語ができれば、  イタリア語もそこまで難しくない、  そんな感覚だった。

でも、全然違った。

学べば学ぶほど、  自分がどれだけ小さいかを思い知る。

知識が増えると、  強くなるどころか、  迷いが増えることもある。

「できている」と思っていた部分ほど、  最初に崩れる。

例えば、拍の取り方。  本当のタンゴやポルカ、  手風琴特有の呼吸と一体化したリズムに触れて、  初めて気づいた。

この楽器では、  拍は概念じゃない。  ズレれば、風箱が息を止める。  アクセントは宙で死ぬ。 ごまかしはきかない。

譜読みも同じ。  ピアノ時代の私は耳頼りだった。  楽譜は流し見、  音がそれっぽければ合格。

でも手風琴では通用しない。 120個のボタンは、  和声のブラックホールみたいなもの。  一つ間違えれば、  全体の重心が崩れる。

「できる和音」を知っているだけじゃ足りない。  「今の手で出せる最適解」を瞬時に選ばなければならない。

演奏するたびに、  脳はフル起動する。

目は譜面、  手はボタン、  風箱は呼吸し、  リズムは体内で回り、  旋律には感情を乗せる。

このプロセスは、  驚くほど正直だ。

過去にサボった場所、  誤魔化した癖、  全部、容赦なく照らされる。 そしてもう一つ、気づいたことがある。

同じ曲でも、  人が違えば魂がまったく違う。

弾いているのは音符じゃない。  背景、経験、美意識、  リズムへの理解、呼吸。

それらすべてだ。

理論も、配位も、呼吸も、表情も理解して、  はじめて旋律は生きる。

そうでなければ、  それはただの朗読。

音はある。  でも命がない。 記憶もない。  存在もない。  —— あなたが、いない。



—— 潯珩亂筆 | XC Scribbles · 拾玖 XIX 🪗

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