🎐 潯珩亂筆 018 - ✨初心者は、いちばん孤独だ

子どもの頃、私はフィギュアスケートに強く憧れていた。  氷の上を軽やかに滑るあの優雅さは、一生手の届かない世界だと思っていた。

大人になって気づいたのは、「不可能」だと思っていた多くのことは、実は扉が閉じていなかったということ。  入ること自体は難しくない。  でも、心まで入るのは別だ。

一歩踏み込むと、すべてが学問になる。  靴紐の結び方。  靴の選び方。  ブレードのカーブ。  それらを体系的に教えてくれる人はいない。  他人の経験を拾い集め、自分の身体と対話しながら、少しずつ「自分の流派」を組み立てていくしかない。

皮肉なことに、上達すると、あの最初の転び続けた日々は記憶から薄れていく。  まるで重要ではなかったかのように。  でも本当は、あの時間こそがいちばん尊い。

初心者が諦めるのは、根性が足りないからではない。  「本当に何も分からない状態」と「恐怖」のあいだで感じる孤独を、誰も理解してくれないからだ。

私が滑り始めた頃、片足で立つだけでも戦いだった。  それでもコーチは「簡単な動き」を指示する。  私は心の中で問い続けていた。  「どこが簡単なの?」

後になって分かった。  すべての「簡単」は、複雑を通り抜けた後にしか存在しない。

初心者は不器用で、敏感で、恐怖を増幅しやすい。  氷の上で転ぶよりも、  理解されない混乱の中で転ぶほうが、ずっと痛い。

今振り返って思う。  人が諦める理由は、苦しさではない。  暗闇の中で、「自分だけが分からない存在だ」と信じてしまうことだ。

でも、違う。  すべての上級者は、その道を通ってきた。  ただ、忘れてしまっただけなのだ。



—— 潯珩亂筆 | XC Scribbles · 拾捌 XVIII ⛸

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